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あらすじ
ある日、のぶは女子師範学校の受験勉強するため嵩の家を訪れた。
嵩は留守だった。のぶは千尋に案内され、嵩の部屋で嵩を待つことにした。
その頃、嵩は一人で汽車の線路の上を歩いていた
。何もない平原に一本の線路が敷かれていた。
汽車はたまにしか通らず、汽車が通らない間は線路の上を歩くことができた。
嵩は、千尋が病院の後継ぎの立場を自分に譲ったことが気になって仕方がなかった。
嵩はおもむろに線路のレールを枕にして寝転がった。
そこへ草吉が通りかかり、線路のレールを枕にして寝転る嵩を見つけた。
草吉は嵩に「おい、何やってんだ」と声を掛け、嵩を心配し駆け寄った。
嵩は草吉に「こうしていると落ち着くんですよ」と話した。
草吉は嵩の様子を察して、「医学部に行くって話を聞いたけど、逃げてどっかに行きたくなったのか」と尋ねた。
すると向こうから汽車の汽笛が聞こえた。
線路の上を走る汽車が線路上で話す嵩と草吉のいる方へ向かってきていた。
草吉は汽車を避けるために線路を下り、平原の方へ避難しようとした。
しかし嵩は線路のレールを枕にして寝転ったまま動こうとしなかった。
草吉は嵩の肩をたたき「おい、危ない。轢かれるぞ。おい、嵩」と必死に声を掛けた。
草吉が嵩をなんとか抱き起し、二人は間一髪のところで汽車を避けることができた。
間一髪のところで汽車を避け、草吉は「危ないところだった」と冷や汗をかいた。
すると呆然としていた嵩が突然、平原に向かって「こんな情けねえ俺、もう嫌だよ。嫌だ嫌だ。うわー」と大声で叫んだ。
その頃、のぶは嵩の部屋で嵩が戻るのを待っていた。
のぶは待っている間、一人で勉強していたがはかどらなかった。
勉強がはかどらないのぶは、おもむろに部屋にあった嵩のスケッチブックを手に取った。
のぶがスケッチブックのページをめくると、そこには千尋との子供の頃の思い出がたくさん描かれていた。
のぶが一人で嵩の部屋でスケッチブックのページをめくっていると、千尋がのぶにお茶を出すために入ってきた。
のぶは千尋にスケッチブックの絵を見せ、「あの時の絵。千尋くん覚えちゅう」と尋ねた。
千尋は「はい」と笑顔で答え、一緒にスケッチブックの絵を見た。
のぶは千尋に「千尋くん、いっつも嵩の後を追いかけよった。
お兄ちゃんのこと大好きなやがななと思いよった」と話した。
千尋はのぶに「わしはそんなええ弟やないがです。兄貴がおらんようなるのが怖かったがよ。
小さい時一人でこの家に預けられたき」と子供の頃の思いを話した。
千尋はのぶに「兄貴が母と一緒におらんようになってしまうがやないかと思うて。
また一人になるのが怖かった」と子供の頃の思いを話した。
のぶがスケッチブックのページをめくると、河原に立つ子供の頃の嵩と千尋の絵があった。
のぶは千尋に「これは」と尋ねた。千尋は絵を見て「兄貴と川を泳いで渡った時や」と当時の事を思い出した。
千尋は「あの時の誇らしい気持ち、思い出しました。あの時から強うなった気がするがや。兄貴のおかげや」と当時を振り返った。
のぶは千尋に「嵩はそういうやつよ。ちょっと頼りないし約束すっぽかすドアホやけど」と話した。千尋は「ホンマですね」と笑った。
ちょうどその頃、嵩も子供の頃千尋と川を泳いで渡った時のことを思い出していた。
嵩と草吉は間一髪のところで汽車を避けた後、河原に座り二人で話した。
嵩は川を眺めながら草吉に「子供の頃、弟と二人でこの川を泳いで渡ったことがあるんです。
あの時は二人ですごいことを成し遂げたと思っていて」と当時のことを話した。
草吉は「この距離で?すごいじゃねえか」と驚いた。
その川は幅7、8メートル程の小さな川だった。
嵩は草吉に「僕らはあの頃ここが世界で一番大きいな川だと思ってました。
あの時の千尋の一生懸命な顔は忘れられません。
こっち側にたどり着いた時には二人で太平洋を横断した気持ちになりました」と当時のことを話した。
嵩は草吉に「千尋は僕が守ってやんなきゃとずっと思ってたんだけど、今では立場が逆転してしまった。
シーソーみたいに」と千尋との関係を話した。
嵩は草吉と別れ、家に戻った。嵩は自室に入ったが、のぶは既に帰っており部屋には誰もいなかった。
嵩が帰って来たことに気が付いた千尋は「兄貴、どこ行っちょったがな。のぶさんずっと待っちょったがぞ」と嵩をとがめた。嵩は返事をしなかった。
千尋は「兄貴どういたがね」と嵩の肩をたたいた。嵩は「うるさい」と千尋の手を払いのけた。
嵩は千尋の胸ぐらをつかみ「お前の優等生ぶるところが気に入らないんだよ」と怒鳴った。
嵩と千尋は取っ組み合いの喧嘩を始めた。
千代子と女中のしんは二人の喧嘩を止めようとしたが止めることができなかった。
女中のしんは朝田家に助けを求め、のぶと草吉が駆け付けた。
登美子も嵩と千尋の喧嘩に気が付いた。嵩は千尋に「病院継ぎたきゃ、継げばいいだろ。
俺に譲ったりなんかするな」と訴えた。千尋は嵩に「わしは兄貴に譲ったりしちゃあせん。
わしはわしの行きたい道を行くだけや」と言った。
千尋は嵩に「兄貴はなんでおふくろの言いなりになるがや。
あの人は息子を医者にして自分の居場所を作りたいだけやろが。
兄貴はあの人に利用されとるがや」と訴えた。嵩は「黙れ」と千尋を投げ飛ばした。
一同は嵩と千尋の思いを知り、騒然となった。嵩は千尋に「ここに貰われてきてから、おじさんとおばさんの顔色ずっとうかがって優等生ずらして。
兄弟でも月とスッポンだもんな。胸の中ではこんな兄貴いなくなればいいと思ってんだろ」と叫んだ。
のぶは二人の間に入り、嵩の頬を叩いた。のぶは嵩に「千尋くんの気持ち一つも知らん。
誰が一番近くであんたのことずっと見てきたと思うちゅうがね。あんたなんかたっすいがのスッポンじゃ」と訴え、走り去った。
草吉も仲裁し喧嘩はやめになった。しかし嵩と千尋が喧嘩したことで、柳井家が抱える問題が露呈してしまった。
感想・考察
嵩は千尋に胸の内をぶつけましたが、事態はより悪くなってしまいました。次回以降が気になりました。
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